プレミアリーグ2022/23、今季移籍し既にシーズン歴代最多得点を記録しているマンチェスターシティのハーランドや、多額の移籍金を投じたものの迷走が続くチェルシーについてなど、元イングランド代表が語る。
今季からマンチェスターシティに加入した怪物FWハーランドは、まだ数試合を残すも既に歴代最多のシーズン35得点を挙げてプレミアリーグを盛り上げている。また、ビッグ6ながら2桁順位で迷走しているチェルシーは、夏冬合わせて1000億円近い巨額の移籍金を投じたことで世界を驚かせた。
そんなプレミアリーグ2022-23シーズンについて、元イングランド代表でウインガーとしてマンC とチェルシーでもプレー経験があるショーン・ライト=フィリップスが語った。
ハーランドのプレミアリーグ初シーズンの評価は?
彼はもう驚異的だ。正直、彼がこの短期間で達成したことには驚かされるばかりだし、彼がいかに若いかということも忘れてはならない。監督やチームが望むやり方に100%慣れたとは言えないが、組織としての向上は試合ごとに見てわかる。
試合をコントロールしながらも、以前よりダイレクトなプレーをするようになり、相手にとってはより難しくなっている。誰もがプレスをかけてマンCの好プレーを止めたいんだ。でも今は、プレスをかけられてパスコースがなくても、以前はなかった背後へのロングパスが可能になった。
彼がチームとしてのマンCを悪化させているという意見については?
その意見には同意できない。ストライカーにこれ以上何を求めるんだ?得点王となった選手がいるチームがリーグを制することは少ない、という統計がある。でも、彼がチームのプレーを変えたとは必ずしも言えないだろう。常にボールを支配するチームに別の選択肢を与えてくれたのだから、そんな弾丸を手にしたくないクラブなんて世界中にないと思う。
ハリー・ケインがマンCに移籍したらどうだった?
ケインがどんな選手かはもちろん知っている。彼は数々の記録を更新し続けているし、得点力もある。彼がマンCにいたとしても同じだろう。もしかしたら、もっとゴールを決めていたかもしれない。
同時に、今のマンCには後ろから前に出てパス1本で相手を突き放すようなダイナミックさはないとも思う。彼は偽9番(ストライカーでありながら中盤に下がってパスで攻撃を組み立てられる選手)としてパス回しでマンCにフィットし、他の選手にも多くのチャンスを作るだろう。でも、ハーランドは背後への攻撃を可能にしていると思う。それに、ハーランドはアシストもうまいしね。
2人とも強烈なストライカーだが、マンCがハーランドを獲得したのは、今だけでなく将来的にもメリットがある長期的な選択だったと思う。
ジャック・グリーリッシュのマンCでの2年目のシーズンについては?
今シーズンの彼の成長は、誰もが待ち望んでいたものだ。アストンヴィラからマンCに移籍するのは、クラブの規模だけでなく、プレースタイル、テンポ、ボールの捌き方、そして彼が選択すべきことなど、大きな調整が必要だっただろう。
今年の彼の貢献度、特にトラッキングバック(攻撃態勢から即座に守備ポジションに戻る)は驚異的なものだった。彼が攻撃する姿を見たい人は多いと思うが、多くのチームはマンC相手にカウンター攻撃を狙おうとする。でも、ジャックは後ろに下がってディフェンスに加勢したり、途中で攻撃を止めたりと、素晴らしい場面も多かった。それは、ゴールと同じくらいの価値がある。同時に、彼は攻撃面でもより多くのものを提供し、大きな試合で重要なゴールを決めている。例え攻撃的な面を常に見せることがなくても、彼はアシストでチームに貢献している。
完全に定着したとは言えないが、彼は監督が求めるものを全て理解し、自身の力を発揮していると思う。
チェルシーの新加入選手の中で最も印象的な選手は?
ジョアン・フェリックス。彼は中盤と前線を繋ぐ存在で、トゥヘル元監督に欠けていた選手と言える。ここ数年のチェルシーを見ていると、守備は良くても最後の3分の1になったときにこの繋がりがないように見えた。フランク・ランパードのようにボックス内に走り込んでくる選手や、アイドゥル・グジョンセンのようにドリブルで仕掛けてくる選手のような脅威がなかった。中盤から前の繋がりにおいて、ジョアン・フェリックスはその部分をうまく縫っていると思う。
あとは、エンゾ・フェルナンデス。彼とカンテが一緒にプレーすれば、守備面を強化できるだろう。今後どうなっていくか楽しみだ。
これまでのミハイロ・ムドリクの印象は?
ミハイロ・ムドリクにとってプレッシャーとなったのは、交代出場のデビュー戦だった。彼はあの短時間で素晴らしい活躍をしたから、誰もが次の試合でスタメン出場を期待した。そのせいで、彼はプレミアリーグに馴染めなかったんだ。デビュー戦の活躍を見たファンはもちろん彼のスタメン出場を期待するし、彼に注目しすぎてしまった。
チェルシー全体が移行期を迎えていて、彼はその移行期の一部なんだ。才能がなければデビュー戦のようなことはできなかった。ただ、彼にはもう少し時間が必要だろう。
プレミアリーグの強さを過小評価しているファンもいるだろうが、選手もまた同様にプレミアリーグの厳しさを甘く見ていることがあると思う。彼はプレミアリーグに移籍したことで現実を知ったわけだが、その中で折り合いをつけていくのだと思う。チームと監督が自分に何を求めているかを理解できれば、彼はきっと素晴らしい選手になる。特に、攻撃から守備への切り替えやカウンター攻撃の早い段階で彼にボールが回ってくれば、持ち前の駿足を生かして多くのチャンスを作る時間ができる。そうなれば、彼との契約は正解だったと思うだろう。
夏の移籍でチェルシーに来てほしい選手は?
ビクター・オシムヘン。ルカクを使わないのであれば、オシムヘンはチェルシーにとって完璧な契約になる思う。彼は豊富な運動量やフィジカルの強さだけでなく、ボックス内での十分な滞空時間を持ち合わせており、ヘディングでもシュートを決めることができる。
その点では、私が見た中ではドログバのような選手だと思う。ナポリでは前線でプレーしているが、彼はピッチを縦横無尽に動き回り、相手チームは彼を止めることができない。チェルシーでの全盛期のドログバを思い出させる。ドログバの強さと賢さは群を抜いていて、例え2人がかりで止めに行っても誰も相手にならなかった。オシムヘンは、そのレベルに近いところに到達できる選手だと思う。
今シーズンのプレミアリーグも残すところあと僅か。マンチェスターシティとアーセナルの優勝争いの行方はもちろん、エース級選手を揃えながらも連敗中のチェルシーはシーズン中に持ち直せるかにも注目したい。そして、マンCのハーランドはこの数試合でどこまで得点記録を伸ばせるのか。最後まで見どころ満載のプレミアリーグから目が離せない。